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◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆

口頭による媒介契約の成立

契約における重要な要素についての双方の意思合致がされていないとして、黙示の媒介契

約の成立が否定された事例

(東京地判 令3・12・24 ウエストロー・ジャパン 2021WLJPCA12248016)

1 事案の概要

 令和元年9月20日、Y(被告・個人)は媒介業者X(原告)の頒布した折込み広告で東

京都内の借地権付き建物(本件建物)の売出しを知り、複数回の内覧を経て、同月23日頃

までに本件建物を購入する意向を示し、25日に不動産購入申込書を提出した。同日頃まで

に、YとA(建物所有者・不動産会社)との間の売買契約の締結日が10月4日の予定とさ

れた。

 その後、Xは、住宅ローンの事前審査申込みの代行、リフォーム業者とのやり取り、売買

代金の減額交渉、媒介報酬の減額検討、売買契約書案の作成等の業務を行った。

 一方、Yは、10月1日、B(別の媒介業者)に連絡を取り、本件建物の媒介を依頼した。

Yは、10月2日、Xに対し、Xの媒介での購入を撤回するとの連絡をした。

 その後、YはBの媒介での購入手続きを進めたが、Xは、Aからの連絡により、Bの媒介

での購入手続を進めていることを知り、Yに対して、Xの媒介により売買契約を締結するよ

う求める等した。Bは、10月13日、媒介業務を行うことを取り止めた。Yは、10月25日、

仲介業者による媒介によらず直接、Aとの間で売買契約を締結した。

 その後、Xは、Yに対し、(1)媒介契約が成立したと主張して、同契約に基づく報酬請求

権に基づき、(2)媒介契約が成立していないとしても、媒介報酬の期待を侵害した、若しく

は媒介報酬を得ることが確実であるとの期待を侵害しないよう努める信義則上の義務を怠

ったことが違法であると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、媒介報酬相当

額の支払を求める本件訴訟を提起した。

 一方、Yは、「(1)媒介契約書は作成されておらず、媒介契約は成立していない。Xの遂行

した業務は、仲介業者として契約の成立に向けて無償で行われるべきものであり、媒介契約

成立の根拠にはならない。(2)Yは、誠実に対応していて、期待権を侵害したとはいえない

し、媒介手続きにおいて信義則上の義務に違反したとはいえない。」と主張した。

2 判決の要旨

 裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を棄却した。

(媒介契約の成否について)

 不動産の媒介契約は、不要式の諾成契約であるが、一般の購入者にとって、媒介報酬は高

額に上るものであり、また、頻繁に行われる取引でもなく、契約締結には慎重な判断を伴う

といえ、通常、媒介契約書の作成なくして契約が成立し得るとする意思を有しているとは考

え難い。

 また、宅地建物取引業法34条の2第1項は、宅地建物取引業者に対し、媒介契約の締結

後遅滞なく所定の事項を記載した書面を交付することを義務付けており、その違反は業務

停止処分の事由にもなっている。

 原告の供述では、売買契約と同時に媒介契約書を交わすのが一般的な業界慣行であり、そ

れ以前に黙示の媒介契約が成立していると述べているが、そうであれば、原告が宅建業者と

して受託する媒介契約は、全て宅建業法に違反することになりかねない。

 さらに、本件建物の概要や媒介報酬額ないしその算定方法について説明したが、原告所定

の一般媒介契約書の様式に定める、それ以外の契約条項について、具体的なやり取りがされ

た形跡は窺われない。

 以上の事情に照らせば、黙示的であっても、媒介契約を締結する意思があったとは認められない。

 原告所定の一般媒介契約書でも、売買契約が成立したときに報酬を請求し得るとされて

おり、契約が成立しない場合には、それまで遂行した業務については媒介報酬を生じ得る役

務とはみていないものであり、原告の主張する業務の遂行をもって媒介契約の成立が根拠

づけられるとは認め難い。

(期待侵害による不法行為の成否について)

 媒介契約成立への期待とは、抽象的なものであり、法的保護に値する権利利益ではない。

また、媒介契約が成立したとは認められない以上、媒介契約締結への期待侵害を理由として、

媒介報酬相当額の損害が生じたということもできない。

(契約準備段階の不法行為の成否について)

 申込書の提出をもって、売買契約締結が義務付けられるわけではない上、専任媒介契約を

締結していない。また、申込書提出日から契約締結予定日までは10日間程度にとどまり、

原告は長期間にわたり契約準備に拘束されていないし、業務遂行に伴って格別費用の出捐

があったとも窺われない。したがって、信義則上の義務違反を理由として、不法行為に基づ

く損害賠償請求は認められない。

3 まとめ

 本件は、控訴審(東京高判 令4・6・14)においても、「契約が口頭で成立するには、契約

における重要な要素について双方の意思が合致していることが必要だが、媒介報酬額の合

意成立は認められないし、媒介契約の有効期間や違約金等について説明していないから合

意もしていない。したがって、媒介契約の成立は認められない。」として棄却されています。

 一方、本件と異なり、契約における重要な要素について双方の意思合致があったとして、

黙示の媒介契約成立を認めた事例として、東京地判 令3・2・26 RETIO125-148等があります。

 本件のように、媒介契約が口頭でなされていたとする場合に、契約後に、「媒介契約が成

立していたか、報酬金額はいくらか」をめぐるトラブルや、「依頼者が宅建業者の情報を利

用し、相手方と直接取引をする抜き行為を行う」トラブルなどが多く発生したことから、宅

建業法34条の2は、宅建業者が媒介契約を締結したときは、速やかにその内容の書面を依

頼者に交付することを義務付けています。

 宅建業者は、宅建業法違反や本件のようなトラブル回避の観点から、媒介依頼があった場

合は、速やかに媒介契約書を締結する必要があることを認識しておく必要があります。