◆◇◆ 最近の裁判例から ◆◇◆
【融資利用と契約解除】
ローン解除期日経過後の、買主の取引建物がフラット35を利用できない構造であったことを理由とする契約解除が否定された事例(東京地判 令4・8・25)
1 事案の概要
買主X(原告・買主側媒介業者Bの宅地建物取引士)は、「フラット35利用相談可能」と表示された本物件の売り出し広告を見て、フラット35の利用を前提に考え、令和3年2月8日、売主Y(被告)との間で、売主側媒介業者A及びBの媒介により本件売買契約を締結した。
(本件売買契約の概要)
・売買代金:3,290万円(手付金200万円)
・残代金支払:令和3年6月28日
・違約金:売買代金の10%相当額
・融資利用:有 申込先C(フラット35)
・融資金額:2,960万円
・融資利用特約:令和3年3月5日までに融資の全部又は一部の金額につき承認が得られないとき、又は否認されたときは、買主は売主に対し、令和3年3月12日までであれば契約を解除できる。
重要事項説明書には、本件建物は簡易耐震診断によると耐震性能は低いとの結果が出ており、今後精密な耐震診断や補強工事の予定はない旨が記載され、XはAから簡易耐震診断報告書を受領した。
本件建物について、フラット35適合証明書の発行を行う会社に対してAが行った事前相談では適合証明書の発行が可能との回答があり、フラット35の利用を前提に購入資金計画表が作成されたが、Xは、融資利用特約期限後の令和3年3月15日に適合証明書が発行できない旨の連絡を受けた。
Xは、Yに対し、主位的に、本件建物について適合証明書を受けることができずフラット35の利用ができなかったため本件売買契約を錯誤取消し又は契約不適合責任に基づき解除したとして手付金返還を求め、予備的に、Yが仲介業者を介して誇大広告したことが不法行為に当たるとして損害賠償を求める本件訴訟を提起した。
これに対しYは、Xによる代金支払債務の不履行により本件売買契約を解除したとして違約金を求める反訴をした。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Yの反訴請求を認容し、Xの請求を棄却した。
(契約不適合責任に基づく解除の可否)
Xは、売買契約締結の際、Aから本件建物の耐震性能が低いことについて説明を受けていたものと推認される。また、フラット35の承認が得られない場合も本件売買契約上は想定されていたことによれば、本件建物がフラット35の適合証明書を取得できる構造、性能を備えていることが本件売買契約の内容として合意されていたとは認められない。
よって、本件売買契約の内容に不適合があったと認めることはできないから、Xによる本件売買契約の解除の効力は認められない。
(錯誤取消しの可否)
上記の各事実によれば、Xは本件売買契約の締結に際してフラット35の利用を前提としていたものの、フラット35の利用ができることが本件売買契約の基礎となる事情になっていたとは認められない。また、フラット35が利用できるか否かは買主による売買代金の調達方法の問題にすぎず、フラット35が利用できることが絶対条件であれば端的にフラット35の利用ができなかった場合には本件売買契約を解除できる旨の規定を設けることも考えられるところ、本件融資利用特約による解除は一定の期間内に限られていることからすれば、フラット35利用の可否に関する錯誤が社会通念に照らして重要なものであるということもできない。
本件売買契約におけるフラット35の利用予定は本件融資利用特約の関係で記載されたものにすぎず、他の資金調達方法を選択することも可能であって、フラット35を利用して売買残代金の調達をすることが当事者間で合意されていたことを意味するものではない。よって、本件建物がフラット35の利用に適合する構造、性能を備えていないことをもって本件売買契約を錯誤取消しできるとは認められず、Xによる取消しの効力は生じていない。
(誇大広告による不法行為の成否)
本件広告は仲介業者が行ったもので、Yが関与した証拠はなく、「フラット35利用相談可能」と記載するのみで、フラット35の利用を確約する内容ではないから、本件広告が誇大広告に当たるということもできない。
(反訴請求)
Xによる本件売買契約の取消し又は解除は認められないから、Xが取消し又は解除の意思表示をした日以降も本件売買契約は有効に存続していたことになる。そして、Xは本件売買契約の残代金を支払わないまま支払日が経過したため、YはXに対して残代金の支払をするよう催告するとともに、履行がない場合には本件売買契約を解除するとともに違約金の支払を請求する旨の意思表示をしたことによれば、本件売買契約はXの債務不履行によ り解除され、XはYに対して本件売買契約に基づく違約金及び遅延損害金の支払義務を負っていると認められる。
3 まとめ
本事例において、事前相談の段階では、フラット35適合証明書の発行が可能である旨の回答を得ていたものの、実際に手続きを行ったところ、ローン解除期日を経過した後になって、適合証明書の発行会社から否認通知を受けたという事情がありました。
しかし、一般に、買主の住宅ローン申し込みについて、金融機関の事前審査が通っていても、本審査で断られることは珍しくないように、このような事態は起こり得るものです。
したがって、買主及び買主に助言する買主側媒介業者においては、売買契約締結後は、速やかにローン申し込みの正式手続きを進めるとともに、万一、ローン解除期日が迫ってきて、融資承認が得られていない状況であれば、融資利用特約による解除権を期日内で確実に行使することに留意しておく必要があります。
ローン解除期日経過後の、買主の取引建物がフラット35を利用できない構造であったことを理由とする契約解除が否定された事例(東京地判 令4・8・25)
1 事案の概要
買主X(原告・買主側媒介業者Bの宅地建物取引士)は、「フラット35利用相談可能」と表示された本物件の売り出し広告を見て、フラット35の利用を前提に考え、令和3年2月8日、売主Y(被告)との間で、売主側媒介業者A及びBの媒介により本件売買契約を締結した。
(本件売買契約の概要)
・売買代金:3,290万円(手付金200万円)
・残代金支払:令和3年6月28日
・違約金:売買代金の10%相当額
・融資利用:有 申込先C(フラット35)
・融資金額:2,960万円
・融資利用特約:令和3年3月5日までに融資の全部又は一部の金額につき承認が得られないとき、又は否認されたときは、買主は売主に対し、令和3年3月12日までであれば契約を解除できる。
重要事項説明書には、本件建物は簡易耐震診断によると耐震性能は低いとの結果が出ており、今後精密な耐震診断や補強工事の予定はない旨が記載され、XはAから簡易耐震診断報告書を受領した。
本件建物について、フラット35適合証明書の発行を行う会社に対してAが行った事前相談では適合証明書の発行が可能との回答があり、フラット35の利用を前提に購入資金計画表が作成されたが、Xは、融資利用特約期限後の令和3年3月15日に適合証明書が発行できない旨の連絡を受けた。
Xは、Yに対し、主位的に、本件建物について適合証明書を受けることができずフラット35の利用ができなかったため本件売買契約を錯誤取消し又は契約不適合責任に基づき解除したとして手付金返還を求め、予備的に、Yが仲介業者を介して誇大広告したことが不法行為に当たるとして損害賠償を求める本件訴訟を提起した。
これに対しYは、Xによる代金支払債務の不履行により本件売買契約を解除したとして違約金を求める反訴をした。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Yの反訴請求を認容し、Xの請求を棄却した。
(契約不適合責任に基づく解除の可否)
Xは、売買契約締結の際、Aから本件建物の耐震性能が低いことについて説明を受けていたものと推認される。また、フラット35の承認が得られない場合も本件売買契約上は想定されていたことによれば、本件建物がフラット35の適合証明書を取得できる構造、性能を備えていることが本件売買契約の内容として合意されていたとは認められない。
よって、本件売買契約の内容に不適合があったと認めることはできないから、Xによる本件売買契約の解除の効力は認められない。
(錯誤取消しの可否)
上記の各事実によれば、Xは本件売買契約の締結に際してフラット35の利用を前提としていたものの、フラット35の利用ができることが本件売買契約の基礎となる事情になっていたとは認められない。また、フラット35が利用できるか否かは買主による売買代金の調達方法の問題にすぎず、フラット35が利用できることが絶対条件であれば端的にフラット35の利用ができなかった場合には本件売買契約を解除できる旨の規定を設けることも考えられるところ、本件融資利用特約による解除は一定の期間内に限られていることからすれば、フラット35利用の可否に関する錯誤が社会通念に照らして重要なものであるということもできない。
本件売買契約におけるフラット35の利用予定は本件融資利用特約の関係で記載されたものにすぎず、他の資金調達方法を選択することも可能であって、フラット35を利用して売買残代金の調達をすることが当事者間で合意されていたことを意味するものではない。よって、本件建物がフラット35の利用に適合する構造、性能を備えていないことをもって本件売買契約を錯誤取消しできるとは認められず、Xによる取消しの効力は生じていない。
(誇大広告による不法行為の成否)
本件広告は仲介業者が行ったもので、Yが関与した証拠はなく、「フラット35利用相談可能」と記載するのみで、フラット35の利用を確約する内容ではないから、本件広告が誇大広告に当たるということもできない。
(反訴請求)
Xによる本件売買契約の取消し又は解除は認められないから、Xが取消し又は解除の意思表示をした日以降も本件売買契約は有効に存続していたことになる。そして、Xは本件売買契約の残代金を支払わないまま支払日が経過したため、YはXに対して残代金の支払をするよう催告するとともに、履行がない場合には本件売買契約を解除するとともに違約金の支払を請求する旨の意思表示をしたことによれば、本件売買契約はXの債務不履行によ り解除され、XはYに対して本件売買契約に基づく違約金及び遅延損害金の支払義務を負っていると認められる。
3 まとめ
本事例において、事前相談の段階では、フラット35適合証明書の発行が可能である旨の回答を得ていたものの、実際に手続きを行ったところ、ローン解除期日を経過した後になって、適合証明書の発行会社から否認通知を受けたという事情がありました。
しかし、一般に、買主の住宅ローン申し込みについて、金融機関の事前審査が通っていても、本審査で断られることは珍しくないように、このような事態は起こり得るものです。
したがって、買主及び買主に助言する買主側媒介業者においては、売買契約締結後は、速やかにローン申し込みの正式手続きを進めるとともに、万一、ローン解除期日が迫ってきて、融資承認が得られていない状況であれば、融資利用特約による解除権を期日内で確実に行使することに留意しておく必要があります。